国別情報一覧

HOME > 国別情報一覧 > 中国 > 詳細

国別情報一覧

2018.12.27

中国中国【中国】「大きく変貌を遂げつつある中国の自動車産業 ~政策が後押しする新エネ車へのギア・チェンジ~」
【中国】「大きく変貌を遂げつつある中国の自動車産業 ~政策が後押しする新エネ車へのギア・チェンジ~」
 今や米国を大きく凌駕する乗用車販売台数を誇る中国。欧州各国が将来的にガソリン車の販売禁止方針を相次いで打ち出す中、中国政府も大気汚染の抑制やエネルギー資源の対外依存度の低下を目的とした新エネルギー車に関わる新たな規制を導入します。
 これにより、中国の自動車産業の勢力図は大きく変化する可能性があります。
 本稿では、大きく変貌を遂げつつある中国の自動車産業について、新たな規制の概要と影響を含めて考察していきます。
 
1.中国の乗用車販売の現状
 2017年の中国における乗用車販売台数(新車販売のみで中古車販売は含まず)は2471万台と、世界全体の乗用車販売台数(注1)(8605万台)の約3割を占めており、8年連続で世界最大の乗用車市場となりました(図表1参照)。
 中国のこの巨大市場は世界中の自動車メーカーにとって、魅力に満ちた市場であることは間違いありません。
 では、中国市場における自動車メーカー別のシェアはどうなっているのでしょうか。
 図表2は2017年の中国国内におけるメーカー別の乗用車販売シェアを、乗用車と新エネルギー乗用車(以下、新エネ乗用車)と呼ばれるEV(電気自動車)、PHEV(プラグインハイブリッド車)、ならびにFCV(燃料電池車)に分けて表示したものです。なお、日系自動車メーカーが得意とするHV(ハイブリッド車)は新エネ乗用車の対象外です。
 一目瞭然ですが、乗用車販売(総販売台数2471万台)では日米独の外資系自動車メーカーが販売シェア上位を占めますが、こと新エネ乗用車(販売台数58万台)については、乗用車全体に占める販売シェアはまだ2%台に留まっているものの、メーカー別に見れば中国系自動車メーカーの独壇場となっています。




 
(注1)主要52カ国を対象とした世界累計の乗用車販売台数。乗用車における各国の定義は以下の通り。①日米中ともに商用車トラック・バスは含まれない。②日中ではSUV車やバンは含まれる。③米国ではSUV車やバンは含まれない。SUV車やバンはライトトラックという定義となっている。しかし、米国におけるライトトラックの大多数はプライベート車として使用されていることから、図表1の数値にはライトトラックも含まれている。
 
2.中国政府による新エネ乗用車シフト政策の背景
 中国の新エネ乗用車へのシフト構想は今に始まった話ではなく、2012年6月に公布された自動車産業政策「省エネと新エネ車産業育成計画(2012~2020年)」に基づいて推し進められてきたものです。
 中国は諸外国に比べ新エネ乗用車シフトへの取組は後発でしたが、①新エネ乗用車購入に対する税金免除、②中央政府および地方政府による新エネ乗用車に対する購入補助金制度、③新エネ乗用車へのナンバープレート優先割当などの政策実施が奏功し、新エネ乗用車販売台数では2015年から3年連続で世界全体の市場において第1位となっています(図表3参照)。
 また、2016年10月に発表された「中国製造2025(注2)」に基づく「省エネ・新エネ車技術ロードマップ」では、2025年までに商用車も含めた新エネ車の販売割合を全新車販売台数の20%(700万台)、2030年には50%(1900万台(注3))まで引き上げるとしています。
 更に、2019年1月から導入される2種類の関連規制は、この新エネ乗用車の販売を一層加速させるものと推察されます。
 




(注2)2015年5月に中国国務院が公布した、製造業発展のための10カ年計画。10の重点分野の1つに、省エネ車・新エネ車の製造強化が含まれている。
(注3)商用車含む内燃機関車及び新エネ車を合わせた新車販売台数の予想値を2025年は3500万台、2030年は3800万台としている。ただし、2018年の新車販売台数は前年を下回る見通しであり、予想値を達成できるかは不透明。

 
3.ダブルクレジット管理規制の概要について
 新たな乗用車生産・輸入規制は2017年9月に公布された「新エネ乗用車クレジット管理弁法(以下、NEV:New Energy Vehicleクレジット管理規制)」(図表4参照)および「乗用車企業平均燃費(注4)クレジット管理弁法(以下、CAFE:Corporate Average Fuel Efficiencyクレジット管理規制)」(図表7参照)のいわゆるダブルクレジット管理規制と呼ばれるものです。
 これにより、中国で自動車を生産・輸入する自動車メーカーおよび輸入車販売企業は、電気自動車をはじめとする新エネ乗用車の一定台数以上の生産・輸入と、生産・輸入する乗用車の燃費基準の向上が義務付けられることになります。
 以下にダブルクレジット管理規制について、もう少し詳しく考察してみます。
①NEVクレジット管理規制(図表4、5参照)
 本規制は、米国のカリフォルニア州他9つの州にて施行されているZEV(Zero Emission Vehicle)規制をベンチマークとしています。乗用車を生産もしくは輸入する企業が規制対象者となり、新エネ乗用車を生産・輸入すると規定の算出方法に基づいた「クレジット」と言われるポイントが付与されます。付与されたクレジットが各企業のクレジット達成目標値を上回れば、余剰NEVクレジットとして他社へ売却し利益を得るインセンティブとなります。逆に下回ることになると、不足する分のNEVクレジットを他社から補填購入するなどの対応が必要となります。つまり自動車メーカーや輸入車販売企業は、各年度の乗用車生産・輸入台数の増加に比例して、新エネ乗用車の生産・輸入台数を増やしていかなければならなくなります。
 具体的に、新エネ乗用車を生産しておらずガソリン乗用車のみを年間100万台生産する自動車メーカーA社が、どれくらいの新エネ乗用車を生産しなければならなくなるか、2019年度の基準を参考にしてシミュレーションしてみます(図表5参照)。
 A社が1種類の新エネ乗用車を新規に生産することにより、NEVクレジット管理規制を満たそうとすると、最低でもEVの場合3万1250台/年以上、PHEVの場合5万台/年以上、FCVの場合2万台/年以上を生産しなければならない試算となります。2017年度新エネ乗用車販売シェア首位を誇るBYDの売れ筋№1車種(PHEV)でも3万911台しか販売されていないことを考えると、同規制の要求水準がいかに厳しいものなのかがお分かりになるかと思います。
 なお、中国工業情報化部より発表された2017年度のデータによると、2017年度時点で2019年度のクレジット達成目標値をクリアしている自動車メーカーおよび輸入車販売企業は、規制対象128社に対して約3割にとどまっている状況です。このような背景もあり、外資系自動車メーカーの間では、新エネ乗用車生産に長けている中国系自動車メーカーと合弁企業を設立するなど、早急に新エネ乗用車の生産を調整できる体制を整えようとしています。





②CAFEクレジット管理規制(図表6、7参照
 次に、CAFEクレジット管理規制導入について、その背景から見ていきましょう。2015年11月にフランス・パリで開催された国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21(注5))にて温暖化対策の国際枠組「パリ協定」が採択されました。その中で世界共通の長期目標として、2℃シナリオ(世界の平均気温上昇を2℃未満に抑える)が掲げられ、参加国全てが温室効果ガス排出量の削減目標を作り、提出することが義務付けられました。その目標を達成するために採用されている世界的に主流な国内対策が乗用車企業平均燃費規制(以下、CAFE規制)です。
 中国も例外ではなく、従前よりCAFE規制を導入していました。今回導入される「CAFEクレジット管理規制」は、これまでのCAFE規制に、数値化された「クレジット」というポイントを紐付け、インセンティブと罰則を与えることで、強制力を持って自動車メーカーおよび輸入車販売企業の燃費水準を管理しようというものです。
 中国政府は、それにより、温室効果ガスの排出削減ひいては省エネ化技術の開発向上に繋げようとしています。
 中国政府の国内における企業平均燃費の要求水準は、2015年の6.9L/100㎞(日本基準換算値14.5㎞/L)から5年間で約3割の燃費改善を求める5.0L/100㎞(日本基準換算値20.0㎞/L)という厳しいものです。この要求水準は、世界トップクラスの燃費水準を誇る日本の基準と遜色ないレベルであることが分かります(図表6参照)。
 次に実際の規制内容について見ていきましょう(図表7参照)。規制対象者は乗用車を生産・輸入する自動車メーカーや輸入車販売企業となります。中国国家基準監督管理委員会が2014年11月に公布した「乗用車燃料消耗量評価方法及び指標」に基づき企業平均燃費の目標値が設定されます。その企業平均燃費の目標値と達成値の乖離幅に乗用車生産・輸入台数を乗じたものが、クレジット(ポイント)として付与されます。付与されたクレジットがマイナスとなれば、他社から新エネ乗用車クレジットを購入するなどしてマイナスの穴埋めが必要となります。
 参考までに、中国工業情報化部より発表された2017年度のデータをもとに2社の自動車メーカーについてクレジット獲得数をシミュレーションしてみると以下のようになります(図表8参照)。
 東風ホンダ汽車は、余剰分クレジットを獲得したことになり翌年への繰越、もしくはCAFEクレジットが不足する自社関連企業へ補填(譲渡)することができます。一方、長安フォード汽車は、不足分クレジットが発生したことになり、他社からNEVクレジットを購入するなどして不足分を補填(購入)しなければなりません。






      

 上記のとおりダブルクレジット管理規制は、中国政府が掲げる新エネ乗用車の目標生産台数(生産割合)および企業全体の燃費水準の継続的な向上に照準を当て、新エネ乗用車の普及と省エネ技術の革新を供給サイドに直接働きかける政策となっています。
 具体的な運用は、各年度終了後に規制対象となる企業がダブルクレジット管理制度の執行状況を年度報告として提出、中国工業情報化部がその内容を精査した上で、各制度のルールに従い付与したクレジットを公表します。クレジットがマイナスだった場合は、補填方法を申告の上、90日以内にマイナスを補填しなければならないとされています。余剰クレジットの人民元換算率や売買方法等に関する細則は、現時点では開示されておらず、後追いで発表されてくるものと思われます。
 
(注4)乗用車の燃費規制で、車種別ではなく自動車メーカー全体で生産台数を加味した平均燃費を算出し規制をかける方式。ある特定の車種では燃費基準を達成できなくても、得意とする車種で燃費を向上させることでカバーすることが可能。
(注5)196カ国の首脳が参加し、2020年で失効する京都議定書以降の温暖化対策の新たな枠組みを取り決めた国際会議。

 
4.新エネ乗用車へのシフトをめぐる外資系自動車メーカー動向
 中国の新エネ乗用車出荷台数の上位は、既にBYDや北京汽車、上海汽車などの中国系自動車メーカーが独占しています(図表2参照)。更には、潤沢な資金を有するアリババやテンセント、百度などの大手IT関連企業から出資を受けた新興の新エネ車メーカーも勃興しています。一部の日系自動車メーカーは、中国市場における新エネ乗用車生産の遅れを取り戻すべく、矢継ぎ早に新エネ乗用車の投入を発表し、量産化に舵を切っている状況です。
 また、2018年4月には自動車メーカーに対する外資規制緩和も発表されました。今までは、外資系自動車メーカーが中国で製造会社を設立する場合、①外資企業の出資比率は50%以内、且つ②同一外資企業が設立できる合弁企業は2社までと規制されていましたが、新エネ車生産の工場設立に限り規制が緩和されました。
 この外資規制緩和を受けて、フォルクスワーゲンやBMWは、出資比率が50%を超える3社目となる新エネ車工場設立の許可を取得しています。
 
5.日系自動車関連メーカーへの影響について
 このように自動車産業の大変革期を迎えている中国では、自動車メーカーのみならず、サプライチェーンを形成する関連メーカーも変化に対応する必要が出てきています。
 日本の中小企業庁が発表する「中小企業白書」によると、従来型のガソリン車の部品点数を3万点と仮定した場合、電気自動車の普及により基幹となるエンジン部品や駆動・伝達部品など約4割の部品が不要になると想定されています。中国内に集積するガソリン車関連の日系部品メーカーは、中長期的な経営戦略の見直しを迫られます。
 一方、新エネ乗用車の中核となる車載用リチウムイオン電池や電動化技術に強みを持つ日系メーカーには大きなビジネスチャンスが到来しています。また中国自動車市場では、大手サプライヤーと新エネ乗用車に適合する技術を有する異業種企業が、既存の縦型サプライチェーンの垣根を越えて提携戦略を組む動きも出てきています。
 なお、大手自動車メーカーに既存のガソリン車関連の部品を提供していた日系自動車関連メーカーには、今まで培ってきた技術を活かした新エネ乗用車向けの商品開発力や営業提案力が求められています。
 更に中国の自動車産業では、新エネ乗用車の普及に加え、自動運転技術やAI技術を駆使した交通のネットワーキング化、自動車の高度情報端末化が進められています。これまで中国の自動車産業と関係の薄かったインフラ関連やIT関連等の日系企業にも新たなビジネスチャンスが訪れています。
      

 ダブルクレジット管理規制他、自動車関連の法規は、中国における一般的な法整備の慣習に倣い、関連する細則やガイドラインが後追いで公表されることが予想されますが、これまで見てきたように、中国自動車産業は政府主導で大きく変わろうとしています。
 中国は2018年7月から輸入車の関税を15%に引き下げていますが(ただし、対米国は関税報復合戦の煽りで別対応)、こうした自動車産業の大変革期において、たとえ中国の自動車の輸入関税が大きく下がっても、中国国外で生産されたガソリン車が、将来的に中国市場でどれだけ消費者に受け入れられるかは不透明です。
 中国の自動車関連政策や法規の変更、市場シェアの変遷等については、自動車産業に関連する全ての製造業の皆さんにとって、今後の動向を注視する必要があると同時に、中長期的な戦略策定の重要性が増してくるものと思われます。

【直近 西日本シティ銀行/上海駐在員事務所 作成記事】
第1回「中華人民共和国 環境保護税法」の施行について~本気度を増す中国政府の環境対策~ 
第2回「中華人民共和国 環境保護税法」の施行について~本気度を増す中国政府の環境対策~
【掲載元情報】
西日本シティ銀行 上海駐在員事務所  田崎 敏洋

前のページへ戻る

  • セミナー&商談会のご案内
  • アジアUPDATE
  • 国別情報一覧

PAGETOP